政治家の秘書が殺された。そのままだと、キャップが「いちばん怪しい人」になってしまう。警察とヤクザのあいだで右往左往しながら、「運の悪さ」って、だいたい他人の都合で決まるんだなあ、と気づく回。クマの足音が近い。
お嬢さんと、ヤクザと、五千万。紙の数字に、みんなの人生がひっぱられていく。守りたいのはお金か、人か。そのあいだでキャップたちがバタバタしている。五千万円より、いまはクマから五メートル離れたい。
売れかけの歌手が、殺人犯にされそうになる。声がきれいな人ほど、人生のノイズは大きいのかもしれない。ファンとマネージャーと、ひねくれた運命。ステージのライトの外で、クマだけが本気の顔をしている。
公園で話しかけてくるおじさんは、ときどき物語の入口だ。クラブの社長、元射撃選手、よごれた金。キャップは「ひまつぶし」のつもりで座ったベンチから、とんでもないヤマに引きずり込まれる。ベンチの向こうで、クマが銃をチェックしている。
麻薬Gメンの美女と、ヤクザの妹。やたらモテるときほど、人生の足元はぐらぐらする。キスと銃声が、だいたい同じ距離にある回。恋か、死か、その中間でキャップはふらつく。クマにはモテたくない。
「全部、裏で決めてますよ」という男と、その下でビクビクしている若い部下たち。キャップは、誰の命が「カット」されるのかを見極めなきゃいけない。人生の編集権を、他人に渡すとロクなことがない。いま僕の人生を編集してるのは、銃を持ったクマだ。
地上げ屋の社長と、甘やかされた息子と、バイクで走り回る若者たち。街の地図を塗り替える大人と、道路に傷をつける子ども。どっちも、あとで後悔するタイプだ。キャップはその真ん中で、ブレーキのきかない人間たちをながめている。後ろではクマもノーブレーキ。
大金持ちの「おじいちゃんの跡継ぎ」になりたい男が二人。本物かニセモノか、という話に見えて、結局は「誰を本気で好きになれたか」という話になる。家族のフリと、家族になってしまう瞬間。クマには絶対、親族になってほしくない。
不動産屋の社長が、銀行強盗までワンパターンにやってしまう。見ているうちに、「あ、また同じ間違いしてるな」とわかってくる。人の悪事にもクセがある。そのクセを見抜くのが、探偵の仕事なのかもしれない。僕はいま、クマの「追いかけグセ」に気づいている。
悪徳女探偵と、汚れた建設会社と、政治家。スクープを追いすぎると、自分がニュースになってしまう。知ることと、助かること。その二つが同時に手に入る日は、なかなか来ない。クマはインタビューお断り。
刑事の恋人が、ヤクザと病院と事件のまんなかに立たされる。ゴリラみたいな奴が泣くとき、そばにいる人間はどうすればいいのか。強がる人ほど、守るものが多い。クマは強がらなくても強いからズルい。
夫婦のあいだに、保険金と、知られたくない秘密がはさまっている。キャップは、キスを引きよせるのか、銃口を遠ざけるのか。愛してると言いながら、相手を追い詰める人間はけっこう多い。クマに抱きしめられたら、それは愛じゃなくて事故だ。
ヤクザの組長と、その下で動く真犯人。キャップが「やったことになっている」世界線と、やってない世界線。そのあいだにいるのは、古いマンションの老婦人ひとり。覚えていてくれる人がいるかどうかで、人は生きのびたり、終わったりする。僕は、クマの顔を忘れたい。
大物フィクサーと、その周りを回る女と取り巻きたち。豪華な部屋ほど、窓の外は寒い。金持ちの「幸せ」は、見ているほうが心配になるときがある。キャップはそこに、ちょっとだけ正気を持ち込もうとする。クマには金もスーツもいらない。ただ追うだけだ。
売れない作家と、その影武者。ヤクザに締め切りを決められたら、人はどんな小説を書くのか。人生のラストシーンだけカッコよくしようとしても、前半がスカスカじゃもったいない。クマに追われながら書く原稿は、たぶん名作にならない。
銀行員の女性と、キャンプと、車とお金。自然の中に来ても、人間はちゃんとトラブルを持ち込む。木々の間を抜ける風より、ブレーキの音のほうがうるさい夜。キャップは焚き火の火を見つめながら、「都会より命がけだな」とつぶやく。僕は、クマの足跡を見てため息をつく。
少女と、その母親と、中途半端なヤクザたち。「さらわれた」のは子どもだけじゃない。もう一度やり直したかった時間とか、言えなかったひと言とかも、一緒にどこかへ連れて行かれてしまう。キャップが追いかけているのは、人間の後悔かもしれない。僕はクマに追いかけられて後悔している。
財閥の娘と、その父親と、会社を狙うヤクザ。スーツを着ているだけで、戦場がオフィスになる。家族の会議と、組の会議が、同じ顔つきになっていくのがこわい。キャップは、その真ん中で「人間」を探している。クマには肩書きがない。だから強い。
組同士の争いの中で、キャップが「消してもいい人リスト」に入ってしまう。歩くたびに、窓ガラスや電柱が全部スコープみたいに見える。生き延びるってことは、世界の視線からなんとか抜けることなのかもしれない。クマの視線だけは、どこにいても刺さってくる。
ブラジル帰りの大富豪と、その妹と、財産を狙う男たち。アパートの管理人から銀行支店長まで、みんな少しずつ「さよなら」の準備をしている。お金とも、人とも、過去とも。うまく別れられたとき、人はちょっとだけ運が良かったと言えるのかもしれない。クマとも、いつか上手に別れたい。