絶滅したはずの孤高の獣、 狼。 だが彼らは、 その姿を時折人間に変えて人の眼を惑わせながら生き伸びていた。 「楽園」を探し求めて行き倒れたキバ。 荒涼とした街角で少年窃盗団を束ねながらも孤立するツメ。 街に溶け込み飄々と暮らすヒゲ。 偶然か必然か、 三人はとある街で邂逅し、 新たな狼の物語がその幕を開ける。
純粋さ故に傷つきやすい心を持った幼き狼、 トオボエ。 彼は街を放浪した末に、 ひとりの少女と出会う。 少女が差し伸べた温かな手に、 トオボエは人間に対して一筋の希望を見出していた。 同じ頃、 警察の研究所から脱出したキバとヒゲは「楽園」への道標となる「月の花」の香りに誘われるまま、 研究所へと舞い戻る。
「花の娘」チェザが、 貴族ダルシアに囚われてしまった。 楽園への手がかりを失ったキバは街を出ることを決意し、 ヒゲと共に出口へと向かう。 途中、 二人は、 仲間たちに裏切られたツメと、 仲良くなったはずの少女から拒絶されたトオボエに偶然出会い、 追いすがる人間たちを振り払って、 街を脱け出す。
フリーズシティを発ったキバ達。 しかし楽園の明確な位置や手掛かりは掴めず、 四人の足並みは揃わない。 口論の末、 ツメは一人群れを去る。 トオボエはツメを説得し連れ戻そうと捜しに行くが、 その先で地中に埋もれていた地雷を踏んでしまう。 やがて爆発の衝撃で覚醒した自動戦車が、 キバたちに襲い掛かかってきた。
荒野を抜けたキバ達は、 海上に浮かぶ鉱山跡の街に辿り着いた。 そこにかすかな花の香りを感じ取った四人は、 誘われるように街に入る。 そこで彼らは、 人間と暮らす狼、 ザリが率いる群れと出会った。 だが、 彼らは「楽園を目指している」と語るキバ達を嘲笑するばかりか、 楽園など存在しないのだと断言する。
誇り高き狼が、 一生を人間のために労力となり働き尽す。 そんな狼達の姿を目の当たりしたキバは、 真っ向からその生き方を否定する。 早くこの街を出ようとする四人だが、 重傷を負っているキバはまだ動くことが出来ない。 そして、 仲間達のために食料を探しに出かけたヒゲが、 街の人間達が仕掛けた罠にかかってしまう。
楽園への旅を続けるキバ、 ツメ、 ヒゲ、 トオボエの四人の頭上に、 ダルシアの飛行船が姿を現わした。 ダルシアによって研究所から攫われ艦内に囚われていたチェザは、 あたかも四人の存在に呼応したかのように、 自ら地上へと飛び降りる。 一方、 チェザを追う奪還隊とシェールもまた、 着実にその距離を縮めつつあった。
チェザ捕獲を企む奪還隊から逃れようと、 空中都市からの脱出を試みるキバたち。 しかし、 街中も含め空中都市を囲むあらゆる方角に奪還隊の見張りが配置されていた。 逃げ道を探す途中、 ヒゲとトオボエは、 両目を黒い眼鏡で隠した不気味な老婆を目撃する。 幽霊とも思われたその老婆はチェザと同じ真紅の瞳をしていた。
本格的に楽園を目指そうと、 決意も新たにした四人とチェザ。 しかし空中都市では、 依然として奪還隊による捜索が続いていた。 様子を探るキバとチェザは、 街中で繋がれたクエントの愛犬ブルーと遭遇する。 するとチェザは吸い寄せられるようにブルーに近づき、 手を伸ばして言う。 「あなたにも狼がいる」と…。
チェザ奪還隊の執拗な追跡から逃れるため、 キバたちは空中都市を抜け、 死の森へと入っていく。 光もなく、 すべての生き物たちが命を失った森の中で、 チェザは枯れ始めてしまった。 光と水を求めて森を彷徨う狼たちの前に、 怪しげなフクロウが舞い降りる。 フクロウの言葉に導かれ、 狼たちは森の洞窟へと足を踏み入れていく。
死の森を出たキバたちは、 外れの街に辿り着いた。 チェザが同行するようになって初めて迎える満月に、 いつになく血が騒ぐキバたち。 その夜、 銀色の月の下で、 荒廃した地上を純白の月の花が覆い尽くし、 楽園に続く一本の道がチェザと狼たちの前に示された。 だが、 そんな彼らの前にダルシアの飛行船が降りたって…。
ダルシアの猛攻を受けたキバたちは、 傷を癒すため廃工場の中に潜伏していた。 チェザを奪われてしまい意気消沈していた彼らの前に、 一匹の黒い狼が姿を現した。 彼女は、 かつてクエントの飼犬だったものの、 チェザとの出会いをきっかけに狼の血に目覚めたという。 キバたちは警戒するが、 ヒゲだけが彼女の肩を持とうとする。
ダルシアに奪われたチェザを取り戻すべく、 キバたちが西をめざしていた頃、 ハブとクエントは空中都市の麓に偶然居合わせていた。 別れた妻を追うハブと、 狼を追うクエント。 彼らは次の街へ移動するため、 有り金をはたいて今にも壊れそうな車を購入する。 道すがら、 ハブはシェールとのいきさつを語り始める
キバたちは、 ダルシアの城へと急いでいた。 だが吹きすさぶ大雪は一向に治まる気配はなく、 小柄なトオボエやブルーの顔に疲労が色濃くなっていく。 見かねたヒゲが先導するキバを止めようとするが、 キバはその声を聞かずひとり群れを離れてしまう。 同じ頃、 再会したハブとシェールたちもダルシアの城に向かっていた。
ジャガラ軍の猛攻で大破したダルシアの城。 かつての威圧的な殿堂は崩れ去り、 廃墟と化したその場所で、 ツメ、 ヒゲ、 トオボエ、 ブルーの四人はキバとはぐれてしまう。 今までの旅を振り返るツメ。 キバやトオボエとの出会い。 住み慣れたフリーズシティからの脱出。 楽園へ向けての旅。 それは果たして運命なのか…。
狼たちを楽園へと導く花の娘、 チェザ。 満月の夜に一度だけキバたちに楽園への道を示したもののダルシアに妨害され、 挙句に今度はジャガラ軍に捕えられてしまった。 トオボエは、 幾度も危険な目に晒されるチェザを案じる。 そして彼は、 かつて人間の老婆に飼われていた頃の記憶を辿りながら自らの旅路に思いを巡らせていく。
チェザやキバたちとようやく打ち解けたブルーが、 ジャガラ軍にとらわれてしまった。 チェザと出会ってから、 貴族の抗争に巻き込まれてばかりのキバたち。 強大な力を誇るジャガラ軍に、 狼だけでは太刀打ちできない。 この事実にヒゲは大きな不安を覚え、 楽園に辿り着くことはできないのではないかと危惧する。
定められた人生のレールの上を順調に走り続けてきたハブ。 彼が唯一自分の意志で選んだ道が、 シェールとの結婚だった。 夢を追うシェールの瞳に、 自分が失った輝きを求めたが、 いつしかその輝きは失せ、 ハブは彼女をも失った。 何より大切なものに気付いたハブは、 荒涼とした世界を奔走する。 たったひとりの女のために。
ダルシア城での混乱の中で、 キバだけが仲間達とはぐれてしまった。 ツメ、 ヒゲ、 トオボエは必死に捜しまわるが、 砕け散った城の残骸の中にキバの影は見えない。 やがて三人は、 城から脱出し雪原に倒れていたクエントの姿を目撃する。 同じ頃、 キバは見知らぬ泉のほとりにいた。 彼はそこで一匹の雌カラカルと出会う……。
キバを捜し続けるツメたちは、 漂流の民・モン族と出会う。 人と動物が共に暮らすその村は穏やかで、 モン族と共にいたいと言い出すトオボエ。 そんなトオボエを残して、 ツメたちは砂漠の骨の地と呼ばれる場所にキバを捜しに行く。 その頃キバは、 心地よい夢の世界の中で、 楽園のことも仲間のことも忘れかけていた。
あらゆる街を次々と占拠していくジャガラ軍。 そんな中、 生き残ったオーカム卿の部隊は、 半壊したドーム都市の近くに集結していた。 彼らは元チェザ奪還隊の隊長に率いられ、 ドーム都市に駐屯していたジャガラ軍に攻撃をする。 そこに、 キバたちが参戦し、 人間と狼の混合軍によるオーカム卿の弔い合戦が始まった…。
ジャガラ卿の城を目指し、 流氷の上をひた走る四人。 視界が激しい吹雪によって悪化していく中、 四人は大量の骨が転がっている氷原にやって来る。 その時、 脚に怪我をしたまま走り続けていたトオボエが海の中に落ちてしまう。 次の瞬間、 トオボエの血の臭いをかぎつけた巨大な何かが、 海中から姿を現した!
ロストシティに到達した四人は、 通風口からロストシティのドーム内に潜入した。 ジャガラの城を探して、二手に分かれる四人。 ヒゲとトオボエは、 腹ごしらえと情報収集を兼ねて繁華街の方に向かった。 だが、 城を見たヒゲは、 トオボエを残して突然走り出してしまう。 その頃、 ジャガラは城の中で狼の到着を待っていた…。
ロストシティの城下町を歩くブルーとシェール。 二人は、 ジャガラの城が見えていない様子で、 不自然な笑顔を浮かべている街の住人たちに会う。 その時、 二人の前に一匹の猫が現れ、 この街の奴らは死人だ、 と告げる。 その猫に案内されて、 ブルーとシェールは街の古本屋を訪れた。 そこでは街の地図が売られていて…。
絶え間なく襲ってくる頭痛のため、 動けなくなってしまうヒゲ。 ヒゲはブルーとともにロストシティを出ようとする。 その頃キバは一人、 チェザを求め傷ついた身体でジャガラ城の中をさまよっていた。 そしてガラス球の中に囚われたチェザの前にジャガラが立つ…。
貴族たちによって行われる、 ジャガラ城の仮面舞踏会に行ったダルシアとシェール。 ダルシアとジャガラは、 仮面を外して対峙する。 その時『月の書』の記述に従って、 ジャガラの部下の錬金術師たちによる儀式が始まっていた。 月光炉の中で、 月の石に集まる月の光の力。 世界は凍り始め、 楽園が開かれようとしていた…。
ジャガラとの死闘を終えたキバたちは、 ブルーがヒゲを待っているはずの場所へと急いだ。 しかしそこに彼女の姿はなかった。 落胆を隠せないヒゲだったが、 チェザや皆に励まされ、 再度楽園へと向けて群れは結集し、 出発する。 同じころ、 ジャガラ城の崩落からハブとシェールもまた命からがら逃げ出していた。
険しい雪道の中を、 ジャガラ城の交戦で負った深い傷を抱えて一行は進んでいく。 そんな中、 重傷を負い意識を失っていたクエントが目を覚ます。 しかし、 いまだ狼を受け入れることができないクエントは、 ブルーたちと別れて、 一人吹雪の中を歩き出す。 そして、 ある人物と対面する……。
終わりゆく世界の静寂を破る銃声。 失われたものを悼み歌う花の娘が、 始まりの樹にいざなわれ楽園への道をひらく。 極光に覆われゆく空の下、 始まりの山の頂を目指す楽園を求めしものたち。 だが月の石よりうまれた獣がその前にたちはだかる…。
毒に蝕まれし狂える獣が花の娘を欲する。 彼女の盾となり、 闇の力に蹂躙されゆく狼たち。 楽園に向かって彼を送り出す遠吠えを背に受け疾走するキバは、 始まりの山の火口の縁を越え、 眼下の暗闇の中に… 跳んだ。